今月から「新高値ブレイク定点観測」という月次シリーズを始めます。私が実践している新高値ブレイク投資の運用状況を、毎月同じ物差しで計測して公開する連載です。
始める理由はシンプルで、相場の「感想」は蓄積しないが、「計測」は蓄積するからです。エンジニアの仕事では、システムの調子を議論するときに「なんとなく重い気がする」とは言いません。メトリクスを決めて、ダッシュボードに出して、先月と同じ物差しで比べます。投資でも同じことをやろう、というのがこの連載です。
初回の今月は、私が過去のトレード日記で経験した「記録の失敗」から始めて、何をなぜ測るのかという計測の設計と、開始時点のベースライン値を記録します。
その「記録の失敗」の元になった集計結果は、決済84トレードの全成績で全件公開しています。
きっかけ: 84トレード分の日記を集計して分かった「記録の穴」
私はこれまでの決済済みトレードを、Excelの日記に84件分記録してきました。先日それを全件集計したところ、成績自体は悪くありませんでした。勝率65.5%、平均利益は平均損失の約2.4倍(リスクリワード2.42)、平均保有29日。「1勝4敗でも儲かる」設計の手法で勝率6割超なら、手法は機能していると言えます。
問題はそこではありませんでした。日記の「エントリー根拠」「相場メモ」「反省・教訓」の列が、84件すべて空欄だったのです。
つまり私の日記は「何を売買したか」の帳簿ではあっても、「なぜそう判断したか」「そのとき市場はどうだったか」の記録ではなかった。だから、2025年10〜11月に経験した4連敗も、地合いが悪かったのか、銘柄選定が悪かったのか、今となっては検証のしようがありません。テスト条件を書き残さなかった実験レポートと同じで、結果の数字だけが残り、原因にさかのぼれない。
この連載は、その反省から設計しています。
なぜ「定点観測」なのか
新高値ブレイク投資は環境依存の手法です。市場全体が強いときに機能しやすく、調整局面ではダマシ(ブレイク後にすぐ失速するパターン)が増えます。つまり「手法の成績」を評価するには「その月の環境」をセットで記録しておかないと、あとから何も検証できません。
そしてもうひとつ、月ごとの手応えの記憶はまるで当てになりません。調子が良かった月は地合いのおかげかもしれないし、不調の月はルールを破った自分のせいかもしれない。84件の空欄が教えてくれたのは、記録は「あとでやろう」では絶対に残らないということです。だから、毎月同じ物差しで、機械的に測って公開してしまう仕組みにしました。
毎月測る3つの計器
計器は欲張らず3つに絞りました。多すぎる計器は見なくなる、というのも運用監視の教訓です。
計器1: 地合い(追い風か、向かい風か)
主要指数の水準と方向で、市場環境を「強気/中立/慎重」で記録します。見るのは日経平均・グロース市場指数・米国の半導体指数(SOX)あたり。新高値ブレイクの成否は個別銘柄の力だけでなく、市場全体の資金の勢いに大きく左右されるためです。
計器2: スクリーニングの漏斗(候補が何銘柄残るか)
毎営業日のスクリーニングで「新高値を付けた銘柄」を拾い、業績条件(直近四半期の大幅増益)と流動性条件(時価総額・出来高の下限)でふるいにかけ、最終的に終値ベースでブレイクを確定した銘柄が何件あったかを数えます。
この漏斗の条件と設定値は新高値ブレイクのスクリーニング設定手順で固定して公開しています。
この「漏斗の各段の数字」は、市場に今どれだけチャンスがあるかの実測値です。候補がゼロの月に無理にエントリーを探すのは、ルールではなく欲で動いている兆候。逆に候補が多い月は、選別基準を上げる余地があります。
計器3: ルール遵守率(損益ではなく)
その月の自分の売買が、事前に決めたルール通りだったかを数えます。エントリー時に逆指値(損切り注文)を同時に設定したか。損切りラインを勝手に動かさなかったか。
損益をあえて計器にしないのは意図的です。正しいルールで負けることも、ルールを破って勝ってしまうこともあるのが相場で、月単位の損益は運の成分が大きすぎます。制御できるのは自分の遵守率だけなので、そこを測ります。
2026年7月・開始時点の計測値
地合い: 「慎重」— 半導体主導の調整局面
7月8日終値時点の計測値です(出典はいずれもYahoo Financeの公開データ)。
- 日経平均 66,819円(前日比-2.1%、3日続落。7月3日の高値からは約4%の調整)
- 米SOX指数は6月末比で約14%の下落と、半導体の調整が深い
- グロース市場も連動して軟調、ドル円は162円台の円安圏
判定は慎重。高値更新の直後に市場全体が調整に入った形で、ブレイクを仕掛けてもダマシになりやすい環境です。
漏斗: 候補9 → 選別後3 → ブレイク確定1
7月第1週の3営業日で、スクリーニングの漏斗はこうなりました。
- 新高値圏の候補として検出: 9銘柄(いずれも直近四半期の増益条件はクリア)
- 流動性基準(時価総額と平均出来高の下限)で選別: 3銘柄
- うち、出来高を伴って終値ベースのブレイクを確定: 1銘柄
- 一時的に高値を上抜けたが終値で確定できず失速(ダマシ寄りの形): 2銘柄
数字が示すのは「候補は出ているが、確定まで至る銘柄が少ない」という、慎重判定の地合いと整合する姿です。なお今月から流動性基準を明文化したため、候補の3分の2がこの段で落ちました。基準変更も計測条件の変更として、このように毎回記録します。
遵守: 1/1(エントリー1件、逆指値を同時設定)
7月第1週の私自身の売買は、保有銘柄への押し目買いが1件。エントリーと同時に損切りの逆指値を設定し、その後ラインを動かしていないので、遵守は1/1です。損切りの執行は0件でした。
件数が少なくて計器として物足りませんが、それ自体が「慎重な地合いでは手数を絞る」というルールの実行結果でもあります。
過去の日記から持ち越した検証仮説
この連載には、84トレードの集計から持ち越した宿題があります。
仮説: 2025年10〜11月の4連敗は、地合いの悪化した時期にエントリーを続けたことが原因ではないか。
当時の日記には地合いの記録がないので、これはまだ仮説のままです。しかしこの連載で「地合い判定」と「自分のエントリー」を毎月セットで記録していけば、いずれ「慎重判定の月の新規エントリーは成績が悪いのか」に実測で答えが出ます。答えがイエスなら「慎重の月は新規を止める」というルールを追加すればいいし、ノーなら余計なルールを増やさずに済む。
感覚でルールを増やさず、実測で判断する。過去の日記を「集計して終わり」にせず、次の計測設計に繋ぐのが、この連載のもうひとつの役割です。
計測の限界も記録しておく(来月への宿題)
正直に書くと、この計測にはまだ穴があります。
1. 市場全体の新高値銘柄数が取れていない。 本来は「東証で今日何銘柄が年初来高値を更新したか」という数字(ブレッドス)が地合いの最良の計器ですが、無料で安定取得するルートが未確立です。来月までに整備するのが宿題
2. スクリーニングの母集団に漏れがある。 現状の検出は値上がり率上位圏が中心で、静かに新高値を付けた銘柄を拾い切れていない可能性があります
計測できていないものを「無い」ことにせず、限界ごと記録しておく。これも実験ノートの流儀です。
まとめ: 来月は同じ物差しで
- きっかけ: 過去84トレードの日記は、成績(勝率65.5%・リスクリワード2.42)は残っていたが、根拠と環境の記録が空欄で検証不能だった
- 開始時点の記録: 地合い慎重 / 漏斗9→3→1 / 遵守1/1
- 損益ではなく、環境・機会・規律の3つを毎月同じ形式で記録する
- 持ち越した検証仮説(連敗は地合い起因か)と計測の穴(新高値銘柄数の取得)は宿題として明記
このシリーズは、数ヶ月分たまってからが本番です。「慎重の月はブレイク確定が実際に少ないのか」「遵守率が落ちるのはどんな月か」——そうした検証は、同じ物差しの記録が積み上がって初めてできます。来月も同じフォーマットで計測します。
なお本文中の勝率などの数字は、私自身の過去の取引記録の集計値であり、将来の成績を保証するものではありません。
計器づくりの延長で、損切り監視もAI化した
相場の計器と同じ発想で、保有銘柄の損切りライン監視をAIエージェントに任せた話をnoteに書きました。なぜ「自動で売らせない」のかも含めた全記録です。
→ 損切りできない僕が、AIエージェントに損切りラインを監視させてみた(note・無料)
本記事は筆者個人の投資手法の記録であり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。


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